小谷城

概略

所在地滋賀県長浜市
城主浅井氏
現存土塁、堀切、石垣

歴史

　小谷城は、「浅井三代記」には「1516年9月28日着工、10月20日完成」という記述がある。しかし同書の記述には疑問点も多く、浅井亮政（長政の祖父）による1523〜24年築城説が有力である。

　浅井氏は北近江を支配した京極氏の被官であった。しかし京極高清が家督を次男の高慶に譲る意向を示した際、これに反発した浅井氏他の国衆は国人一揆を形成した。1523年、浅見貞則が国衆の中心として、高清の長男高延を擁し、高清・高慶父子を尾張へ追い出して専横を強めた。
　この時期に浅井亮政は、浅見氏への対抗上小谷城の築城を進めたと考えられている。亮政は一度追放した主君・京極高清を復帰させ、さらに高延も小谷城に迎えて、1525年に国人一揆の盟主となった。

　ところが同じ1525年、南近江守護・六角定頼が北近江に侵攻し、亮政は小谷城に籠城。堅固な城に攻めあぐねた六角氏は、越前から出陣してきた朝倉教景の仲介によって、京極高清・浅井亮政と和睦した。この時、朝倉教景（金吾）が陣を敷いたのが、番所跡の南の尾根の高まりにある「金吾丸」である。
　その後、和睦から一転して京極高清・浅井亮政は美濃へ落ち延びるが、翌年には北近江に復帰した。
　その後も六角氏の侵攻は相次いだが、そのことと逆に北近江の国人らの結束を強め浅井氏がその盟主としての地位を固めることとなった。

　しかし1538年、京極高清が死去し高延が高広と改名して跡を継ぐと、高清の長男高慶が六角定頼と通じて挙兵。亮政と六角定頼の軍が佐和山城麓で激突、佐和山城は六角方に落ちた。その後小谷城付近でも戦い六角氏が勝利。近江は六角氏のもとで安定し、浅井亮政も定頼配下に入った。

　1542年亮政が死去し、久政が家督を継ぐが、彼もまた六角支配に従属していた。
　久政の嫡男・猿夜叉（後の長政）は、1559年に元服。六角定頼の子・義賢の偏倚をいただき賢政と名乗り、六角氏の重臣・平井定武の娘を娶る。
　しかしまもなく賢政は妻を離縁したため、六角義賢の侵攻を招く。1560年8月、浅井軍は野良田の戦いで六角氏に勝利、賢政も初陣した。同10月、久政は家督を賢政に譲り隠居。翌1561年、賢政は長政と改名した。
　なお久政隠居については、父子対立の説もあるが、久政も小谷城内に居住し、長政と連署した文書もあるので、あまり問題ではないと思われる。
　1563年、六角氏家中で「観音寺騒動」がおこり、六角氏を離れて浅井氏に仕官した者も多く出た。これに乗じて浅井長政は現・彦根市周辺まで出陣し勢力を広げた。

　このころ、尾張の織田信長は斎藤氏との膠着状態を打破するため、斎藤氏と連携していた六角氏のライバル浅井長政に同盟を持ちかけた。この同盟に際して、信長の妹・市と浅井長政との政略結婚が行われた。この結婚の年代は永禄2年(1559)〜11年(1568)の間の諸説があり確定していない。また、浅井長政が賢政から改名したのは、信長の1字を拝領したという説もある。

　1568年7月、越前に滞在していた足利義昭は、一向に上洛の意志を見せない朝倉義景を見限り、信長のもとに身を寄せた。8月、信長は上洛経路を確保する交渉を六角義賢と行うため佐和山城に入るが、「織田軍記（総見記）」ではこの時初めて信長と長政が対面したとしている。翌9月に信長は上洛、10月に義昭が征夷大将軍に任じられた。
　この信長上洛に際して、長政には特段の恩賞が無かったことが、長政が信長から離反する伏線となったとする説もある。

　1570年4月、信長は徳川家康とともに琵琶湖西岸を通過し若狭・越前の朝倉氏の城の攻略に乗り出す。すると浅井長政は突如、信長を裏切り背後から攻めかかった。窮地に陥った信長は、秀吉らの働きによりかろうじて退却に成功した（金ケ崎の戦い）。
　この裏切りの理由については、現在も諸説あって確定していない。
　浅井・朝倉の同盟は、少なくとも亮政・久政時代には存在しなかった。だから朝倉氏との関係重視という理由はあまり成り立たない。しかし長政の代になって六角氏から自立した際に朝倉義景との関係が結ばれたという説も出ている。「総見記」には、「信長が朝倉を討伐した後、浅井も攻められるのではないかと疑心暗鬼にかられた」という説が記されている。一方、足利義昭の指示を受け、朝倉・浅井・六角が連携して信長を排除しようとした、とする説も出されている。

　1570年6月、長政は朝倉軍とともに、近江・姉川で織田・徳川連合軍と戦い、敗北した。浅井氏と協力関係にあった延暦寺も、1571年に信長による比叡山焼き討ちで壊滅した。
　1572年7月、信長が北近江に来襲。長政は朝倉義景に援軍を要請。浅井・朝倉軍と織田軍のにらみ合いが続いた。9月、将軍義昭の要請に応えて武田信玄が甲斐を出発。三方原で徳川軍を撃破し三河へ侵攻。しかし12月に朝倉義景の軍が、近江から帰国。武田信玄は朝倉に対して激怒し再出兵を促すが朝倉はこれを無視。そうこうするうちに信玄が死去したため、武田軍も甲斐へと退却。こうして武田・朝倉・浅井による信長包囲網は破綻した。

　1573年7月、信長は北近江に攻め寄せた。長政は義景に援軍を要請、義景も2万の軍で駆けつけたが、織田軍の攻勢と浅井家中の裏切り続出という事態を見て、越前に撤退した。信長はこれを追撃して越前に攻め入り、朝倉氏を滅ぼした(一乗谷の戦い)。
　越前から取って返した織田軍は小谷城を包囲。秀吉を使者として降伏を勧告したが、長政は断り続けた。8月27日、秀吉率いる部隊が水の手から京極丸を占拠。これで浅井久政がいた小丸と長政がいた本丸が分断され、久政は自害。長政はお市と娘3人を織田方に引き渡し9月1日に赤尾屋敷で自害した。

　小谷城は標高495mの小谷山の尾根筋に築城されている。頂上495mのところには大嶽城(おおずく)があるが、小谷城本体の最高点は標高約380mのところにある山王丸でここが詰の丸である。その下の京極丸が350m、本丸は330mほどにあたる（Google Map地形レイヤーの等高線から）。ちなみに琵琶湖畔の標高が約85m、小谷山麓が100m。さらに小谷城中腹駐車場は標高260mなので、本丸との比高は70mほど、山王丸まででも120mとなる。

　登城経路は、番所→御茶屋→御馬屋→桜馬場→黒金門→大広間・本丸となる。黒金門下の首据石のところから東へ行くと赤尾屋敷という腰曲輪があり、そこが浅井長政自刃の地である。また本丸の北に大堀切があり、その北に中丸→小丸・京極丸→山王丸と続く。小丸が浅井久政自刃の地である。

　小谷城のある尾根の西にある谷が清水谷で、そこが重臣たちの屋敷街で、その南入口には城戸があった。現在、そこには小谷城戦国歴史資料館がある。その東脇から番所跡をめざす「追手道」がある。
　また、この山の最高点にある大嶽城は、浅井亮政の築城時からあったとされるが、考古学的には裏付けられていない。現在の大嶽城の遺構は、1573年に浅井氏の援軍としてやってきた朝倉義景が築いたものである。

小谷城map、長浜観光協会のパンフダウンロードページ（「小谷城跡を歩こう」）

訪問記・写真

　2025年10月31日(金)訪問。この日から11月3日まで彦根、湖東三山＆安土、近江八幡と3泊4日の滋賀旅行。この旅行は天気予報が非常に不安定で大変だった。
　初日のこの日は新幹線で11:10米原着。当初の予定では、まず駅前のイタリアンで昼食をとってから、12:30レンタカー手続き、12:50始動、13:30小谷城戦国歴史資料館を見た後、14:00頃に小谷城中腹駐車場に移動し城跡見学のつもりだった。
　しかし出発前日に天気予報をチェックすると、長浜市ではこの日、午後2時台から雨らしい。そこで、イタリアンがちょうど予約を受け付けていない店だったのでここをやめて、昼食は新幹線内で助六寿司を食べて済ませ、11:30にレンタカー手続きに変更。さらに歴史資料館見学は後回しにして、すぐに中腹駐車場に乗り付け城跡見学と切り換えた。結局これが大正解。

　11:45レンタカー始動。12:25中腹駐車場着。
　この駐車場まで登る林道（舗装道路）が結構狭いことは、レンタカーの係の方も言っていた。たしかに対向車が来たらすれ違うのはかなり大変。ちなみに狭いので歩行者は通行禁止。
　さらにGoogle Mapには確かに「小谷城中腹駐車場」と表示されている左カーブの所に駐車場である旨の看板はない。カーブの所に木製の小さな看板が無造作に置かれていて、そこに「下車」と書いてあるだけだ。
　私は当初その左カーブを曲がってさらに登ろうとしたら、その上の行き止まりにいる軽トラのテールランプが点いている。どうやら軽トラが下りて来るようなのだが、狭い道なのでこちらがカーブの所までバックするしかなかった。
　そこで私はようやく下車の看板を目にし、バックミラーにはせいぜい3台ぐらいしか駐められないスペースが見える。これは観光客からしたら「駐車場」とは言いがたい狭さである。
　実際、我々が訪問した翌日11/1から土日祝3連休中は、麓の歴史資料館によってシャトルバスが運行され、この中腹駐車場への林道は一般車の通行はできない。そのことは小谷城戦国歴史資料館のホームページにも書かれていた。確かに大型連休中にここまでの道を一般車が通行したら大変なことになるだろう。
　しかしこの日は金曜日、しかも天気も悪い。麓からの追手道を歩いて登ってくるような物好きもいないだろう。整備作業者のものであろう軽トラが下りていったら、この山中は我々夫婦だけだ。しかも！「熊注意」の看板がある。城跡にはかなり大きなドングリがあちこちに転がっていたから、そりぁ熊もいるだろう。ということで、常時「熊出るなよー」とおかしな旋律で発声しながらの見学となった。

　12:30。先ほど軽トラが停まっていたところから山道が始まる。右手すぐが「番所跡」。ちなみに左は資料館脇から登ってくる「追手道」、および「金吾丸」という出丸への登り口がある。ここからの琵琶湖の眺めがすでに十分晴らしい。だから番所が置かれたのだろう。金吾丸はパスして、右へ。
　番所跡は案外広い曲輪である。この城は現地の案内板も充実している。この山の最高点・大嶽城まで1.7km、本丸まで400mとある。（この距離はあくまでも平面上の距離である。ここから本丸まで400mではなかった。）またその場所の絵図も表示されているが、これは歴史資料館で350円で買えるリーフレット「浅井三代の山城 復元 小谷城　−歩いて体感、戦国の城−」に掲載されているものと同じである。
　登り坂は粘土質の土にゴツゴツした石がたくさん転がっていて、勾配もなかなかキツい。
　右ヘアピンカーブの所からも眺めが良い。これが虎御前山展望所である。正面（南南西）に、1573年に織田信長軍が布陣した虎御前山が見える。
　さらに登ると左折れで「御茶屋跡」である。ここも立派な曲輪で南北に2つに分ける低い土塁がある。

　左カーブで登っていくと左手に「御馬屋跡」。ここも南北に段差がある。上段に馬洗池がある（今は水が無い）。御馬屋跡の表示と解説板は下段にあるが、そこが雑草だらけだった。 　そのまま曲輪の東側、ますます大きな岩がゴロゴロしている道を登ると木製のお立ち台があり「横山城址・姉川古戦場展望所」と書いてある。横山城は1570年姉川の戦いの時に織田方に奪われ羽柴秀吉が城主となった山城だ。隣には「首据石」がある。1533年、築城初代の亮政が、敵の六角氏に内通していた家臣を謀殺しその首を据えたところらしい。
　首据石の右手へ細い道を行くと浅井長政自刃の地となった赤尾屋敷跡、まっすぐ進むと大広間の入口である黒金門跡である。

　時刻は12:50。まだ天気は大丈夫。先に「赤尾屋敷跡」へ向かう。最初少し下って山腹東の細い通路を奥へと進むと、突き当たりに広い曲輪があり「浅井長政公自刃之地」の新しい石柱がある。蝋燭台・線香台・花瓶があり、「ロウソク、線香の火はお参り後かならず消しておかえりください」と表示がある。まあ戦国時代ファンにとっては最大の聖地の一つなんだろう。我々は天気との勝負なのですぐに引き返す。
　再び首据石まで戻り、少し登って黒金門の南前「桜馬場跡」へ。ここは東西2段に細長く分かれており西が一段低くなっている。黒金門すぐ下には「浅井氏及家臣供養」の塔がある。馬場の南端は展望台になっていて南と西に展望が開けている。西には琵琶湖と竹生島も見える。
　次いで「黒金門跡」を登り「大広間跡」へ。門跡には石段と両脇に大きな岩がある。石垣の痕跡だろう。大広間は別名・千畳敷とよばれ城内最大の曲輪で、ここに御殿が建っていた。その北の本丸下には結構ちゃんとした石垣とその右の登り口の石段がある。
　13:10。「本丸跡」に登る。鐘丸とも呼ばれていたようだ。その北の大堀切を見下ろした後、本丸から下りて、その西側から北に回り込む。するとその左下(西)が「御局屋敷跡」である、との表示がある。確かに見下ろすと帯曲輪があるようだ。
　「大堀切」は高低差もかなりだが幅も広い。堀切の東側にまわると、本丸の東下にも腰曲輪があることがわかる。本丸から大堀切や東腰曲輪に強引に下りてこないよう、柵が設置されている。

　大堀切を挟んで本丸の反対側は「中丸跡」だ。そこへは左(西)から回り込み右上へ登り左折れで南正面の虎口から入る形になっている。この虎口も石垣があったようだ。中丸は南北に3段からなっている。中段に解説板などがある。上段の右(東)奥隅に「刀洗池」跡があり、そのすぐ脇に京極丸への登り口がある。
　ここを登ったところが「京極丸」の1段目、その後すぐ北へ登ったところが2段目だったようだ。しかしこの2段目に、「左(西)奥が京極丸虎口」という表示がある。一方、正面に上へ登れそうな道もある。これは見学者のための便宜的ルートのようにも見えたのだが、実際は正規の3段目の登り口だった。私はそれを登るのではなく、表示にある「左奥の京極丸虎口」を探そうと思い、そちらへ進むことにした。すると下り坂で腰曲輪的なところへ下り、その奥にさらに「左 京極丸虎口」と書かれた矢印とロープが張られている。これに従えば、さらにその下の腰曲輪に下りることになりそうだ。そもそもこのロープの意味が「これをたどって下に下りろ」なのか「行くな」なのか、よくわからない。後で解説図を見ると、この下の曲輪に
　時刻は13:30、天気悪化との競争なので、ここは引き返す。そして見学者ルートに見えたが実は正規の3段目への登り口を登る。この3段目からさらに北、4段目まで登ると､ようやくそこに京極丸の解説板があった。この京極丸4段目最上段は、東側に高い土塁がある。一方反対側、左(西)奥の登り口を上ると「小丸」である。小丸は東西2段になっていて東側が高く、ここに比較的大きな建物があったようだ。しかし、小丸の解説はさきほどの京極丸4段目の解説板にまとめて記されていたのだが、それをよく理解していなかったため、小丸東上段の高みを単なる土塁と思ってしまっていたので、そちらに上がることをしなかった。失敗だった。
　小丸の西奥から登ると「山王丸」虎口前の馬出である。虎口は南面中央にあるが、その前に山王丸東下に回りこみ「大石垣」を見に行く。この大石垣下も帯曲輪的なスペースになっているようだ。
　虎口は大きな岩がゴロゴロしており、登りにくい。登るとしばらく進んでその奥でもう一段登ると解説板がある。このあたりが山王社を祀っていたところのようだ。しかしさらに北に一段高くなっている。さらにその奥も背が高い草木の間を抜けて道がある。ずんずん進むと「至 六坊経由 大嶽城」と書かれた矢印看板があり、そこから下り坂道が続いている。これが山王丸北端のようだ。
　時刻は13:50。予報によればそろそろ雨が降り出すはずだ。もともと山王丸までの見学予定だったので、あとは急いで引き返す。その途中ポツポツ降り出したので持参した折り畳み傘を差しつつ足元も気をつけながら下山。駐車場に戻った頃から本格的に降り出した。ギリギリセーフだった。

　この後は車で小谷城戦国歴史資料館へ。その少し南に清水谷城下町の入口となる「大手門」（といっても両側の柵とちょっとした屋根付きの門だが）が模擬復元されているが、雨なので写真撮影はしなかった。
　資料館を少し見学した後は「道の駅 浅井三姉妹の郷」でケーキとカフェオレで一服して、彦根市のホテルへ向かった。